旅日記,随想,俳句など…

屋久島紀行1

屋久島紀行 (2006.10.1-4)

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 以前から屋久島の宮之浦岳には登ってみたいという気持ちを持ちながら,そのための休暇を取る機会がなく,今日まで登る機会を持てないでいた.屋久島3泊 4日の夫婦2人の旅行パックの大変嬉しいプレゼントを卒業生たちから頂いた.その際に宮之浦岳へ登る機会を得た.これは,そのパック旅行で10月1日から 4日まで屋久島を訪れ,私たち夫婦二人で宮之浦岳を登ったときの記録である.宮之浦岳登山は10月2日から1泊2日の日程で行った.新高塚小屋という海抜 1500メートルにある山小屋で一泊を過ごした.その1泊2日の山行記を中心とした屋久島旅行の紀行文である

 屋久島は鹿児島の南,大隅半島から60キロ離れた海 上に浮かんだ周囲100キロ余りの島である.気候的には亜熱帯に属する.1993年,青森・秋田の県境にある白神山地とともに自然遺産として世界遺産リス トに登録された.登録された地域は島の20%にあたる森林である.この森林は,日本固有のスギの大木を有すること,原生に近い照葉樹林が広範囲に残されて いること,また,海抜0メートルから1900メートルにわたる植生の垂直分布が観られることなどが評価されている.宮之浦岳(1936メートル)はこの垂 直分布の頂点にあたる.1泊2日の山行の1日目は,淀川登山口(海抜1360メートル)からこの宮之浦岳を登り新高塚小屋までたどり,2日目は,早朝に新 高塚小屋を出発し縄文杉やウィルソン株を見物しながら荒川登山口(600メートル)まで下ろうという計画である.

(1)第一日(10月1日)
 小雨がパラついて暗くてどんよりとした天気である. 家を8時半に自家用車で出発,日曜日であるせいか道路は比較的空いている.そのせいで9時前に空港に到着.チェックインで,「天候の如何で鹿児島からの飛 行機が屋久島に着けずに鹿児島まで帰ってくることもあるので,そのことをご承知ください」との脅しを受ける.荷物を預けて10時30分の出発まで1時間余 りすることがないので,東海林さだおの「ゴハンの丸かじり」で時間をつぶす.それにしても旅行する場合のワクワク感がないのはどうしたのだろう.旅行の準 備を朝起きてから急いで行い,前日までは旅行の準備がほとんど出来なかったことが原因かも知れない.例えば,旅行の準備をするということは,その旅行に気 持ちを集中し,気持ちを高めることに重要な働きをするのではないかと思う.今回はその準備をする時間がないまま,いきなり旅行に突入したように思う.
 しかし,東海林氏の文章は実に軽妙・軽快である.ま た,発想が豊かである.味付け海苔にミソや塩や(カレー粉+塩)を付けてゴハンを食べるという発想は一体何処から来るのか.この人は基本的に食い意地が 張っているのであろう.私も食べるのは好きな方であるが,ここまで発想は豊かでない,まだまだ,食い意地の張り方が足りないということか?

 10時20分から搭乗案内があり,18番搭乗口からの搭乗になった.搭乗口から進んで行くとバスが待っており,バスで飛行機のタラップまで運んでもらう.飛行機は何とプロペラ機(写真1参照)である.スチュアーデスは2名で客は70名程度の席に6割程度の入りであった.福岡空港からは,10時45分に離陸,飛行機は思ったほどは揺れず安定した飛行であり30分程で鹿児島空港に到着した.タラップを降りると福岡より少し暑いような気がする.

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写真1.福岡—鹿児島および鹿児島—屋久島を飛んだプロペラ機

 鹿児島空港は,約20年前に菜の花マラソンに参加したときに利用したことがある.その時の空港に比べると随分立派になっているように思えた.空港内のレストランで昼食をとることにする.到着口を出て近くにあった和風のレストランは混んでいた.まぐろつけ丼セット(1180),黒豚トンカツセット(1470),生ビール(中)(610)を注文し,周りを観察する.お年寄りの旅行者が多い.食事はとても美味しかったとは言えないのが残念.

 鹿児島からの飛行機は,先ほどの飛行機と同形である.飛行機に搭乗してみるとスチュアーデスも先ほどの人と同じである.飛行機はほぼ満席,屋久島観光のツアー客がほとんどのようである.周りの乗客は盛んに明日の屋久島でのツアーについて話が弾んでいる.山に登る人も多いようだ.われわれが明日宿泊を予定している山小屋は先着順で40名程度しか止まれないとのことであったが,無事に山小屋に転がり込めるかどうか少し不安になる.山小屋に入れなければテントが必要になる.スチュアーデスで飴を差し出したので,明日の山での行動食の足しにと思って2,3個いただくことにする.

 25分ほどで海岸沿いの屋久島空港に着陸(写真2),やはり南だけあって鹿児島よりさらに蒸し暑い.屋久島で宿泊するホテルは安房(あんぼう)にある.安房は空港から南に下がったところにある.到着から数分後にそちらに向かうバスがきた.そのバスで空港からホテルに向かうことにした.道路の両側にハイビスカスやフヨウの花が盛んに咲いている.ハイビスカスは年中花が咲くということであった.また,このフヨウはサキシマフヨウという種子島や屋久島,沖縄などに自生する日本固有の種ということである.地図で確認して「中央」というバス停で降車する.バス停の周りには何もない.バスの進行方向に数メートル行くと急に視野が開けて,広い駐車場がありホテルの看板があった(写真3).駐車場の中央にはガジュマルの木があった(写真4).フロントでチェックインをしようとしたが,部屋に入れるのは3時からとのことであった.明日の早朝に登山口まで運んでもらうタクシーの予約をしてもらい,荷物を預けて安房の町まで散歩をすることにした.
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写真2.到着した屋久島空港

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写真3.屋久島グリーンホテルの玄関

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写真4.ホテルの駐車場のガジュマルの木

 中心地まで歩いて20分程度ということである.アメリカやカナダの田舎のように家と家との距離が非常に長い.人口の割には土地がいくらでもあるということか.信号機がある,町の中心と思しき所にスーパーを発見した.帰りに山中での食料をここで買うことが出来る.さすがにこの辺りでは家が建て込んでいる.さらに先まで散歩するが,外を歩いている人がほとんどいない.10メートルほど先を若いカップルが歩いている.これは観光客風である.この土地の人は見かけない.海岸まで出た.海岸通りの片側にはタブノキの並木とシャリンバイの植え込みがあった.港にも人影は見えない.引き返して先ほどのスーパーで食料を買い込むことにする.明日の朝食と昼食はホテルで弁当を用意してもらうことにしたので,明日の夕食と明後日の朝食,昼食をここで買う必要がある.昼食は行動食(パンと魚肉ソーセージ)にして,後はカップ麺を中心とした食事をすることにした.カップ麺を中心とすることにしたのは,理由がある.7月の末に,九重の分光セミナーの後に研究室の大学院生と久住登山をしたとき二日目に大船山の頂上に昼頃到着して休んでいるとき,頂上から5メートルほど下でおにぎりとカップ麺を食べていた単独行の男がいた.我々は下山してから昼食を食べる予定にしていたので,食べ物をいっさい持参していなかったことも多いに作用したのだと思うが,カップ麺とおにぎりの組み合わせが美味しそうで実に絶妙に思えた.今度,山に行く時にはぜひ試したいと考えていた.それを実行する絶好のチャンスである.缶詰と煮豆,チョコレートや若干の非常食に加えてミカンを一袋買い込んでレジを済ませる.締めて2000円余であった.

 帰りはタクシーを利用するつもりであったが,どこにもタクシーがいない.歩いてホテルまで帰る.家と家の間の間隔の広さからみてあたりの雰囲気はまったくアメリカの田舎である.ホテルでの部屋は4階であった.わりに広い.黒潮は黒く見えると聞いたことがあるが,窓から黒潮が流れているあたりの海の色が遠くに少し明るい空色に見える.太陽光線の加減であろうか.夕食までにホテルのすぐ前にあるレンタルショップ(レンタカーの店)でシュラフ1個とマット2枚を借りる(締めて2400円).

 心配なのは明日の天気である.福岡を出発する2,3日前から天気予報をみているが10月2日は雨であるという予報はずっと変わっていない.ホテルの1階ロビーにインターネットに接続されたPCがあったので覗いてみるが,依然として傘マークが午前中についている.やはり,雨の中での登山は覚悟しなければならないようだ.

 風呂上がりに6時半から夕食にレストランに向かう.レストランでは部屋ごとにテーブルがセットされており,トビウオの天ぷらに鯖の味噌煮の鍋,刺身(まぐろ,イカ,ブリ),鹿肉のたたき,苦瓜の酢の物などが卓上に並んでいる.鹿肉のたたきはなかなか美味である.苦瓜の酢の物も美味しい.鯖の味噌煮もよい.しかし,メインのトビウオの天ぷらは特に美味しいものではない.生ビールの後に「三岳」というイモ焼酎をいただく.これもよい.三岳とは,屋久島の最高峰,宮之浦岳(1936メートル)と永田岳(1886メートル),黒味岳(1831メートル)のことだという.あるいは宮之浦岳のすぐ南にある栗生岳(1867メートル)を含めるという話もある.これらの1800メートルを超える山々は人家のある海岸辺りからは見えないので奥岳と呼ばれている.永田岳以外の山は明日登ることになっている.明日は6時にタクシーで出発するために5時半に起床予定である.フランスでの凱旋門レースをテレビで見ることもなく早々に着床した.

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